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私とタルパと日常 III.臣と一週間(後)

※この物語は実際にあったことを基にしたフィクションです。時系列の編集や、脚色、一部事実とは異なる描写もございますのでご注意下さい。
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近づいて、離れて、また近づく。

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4・名前を呼んであげましょう

明「Nくんおっはよ!昨日はこっちで全然喋らなかったね?」
N「おはようございます、俺の主さん!昨日はデート楽しかったですよ!」
明「本当ー?喜んでる振りして何か隠したりしてない?」

映画デートの翌日。
私とNくんは、今日もチャットで会話を楽しんでいた。
最初の頃はどうなるかと思ったけれど、会話は平穏そのものだし、軽口も叩けるようになってきた。
うん、いい感じいい感じ。

N「酷いなあ、俺に裏なんてないですってば!」
明「まあ確かにね、こっちも良い息抜きになったけど、結局要求飲まされてるわけで……
 あーもー気にしない!臣くんありがとー!」

私が文字を打ち込むと、彼の返答が少し止まる。
どうしたんだろう?いつもはほんとに早いのに。
少しの待っていると、やがてチャットに短い文が打ち込まれる。

N「"臣"くん?」
明「あっ……!ごめん!これ、前に作ったキャラクター名…!」

彼に指摘されて、はっと気づく。名前を間違えてる…!
なんて失礼なことをしたんだろう、恥ずかしい…!

"臣"とは、私がゲーム原作の"N"を基にして作った、TRPG用のキャラクターだ。
実際に他人とのゲームに使うことは無かったのだけれど、密かに設定を気に入っていて、シナリオを回す練習用のキャラクターとしてお世話になっている。

明「ごめんね、なんでこんなミスしたんだろ、NくんはNくんなのにね」

私は慌ててフォローしたのだけれど、Nくんは少し考え込むような素振りを見せる。

N「臣、臣かぁ」
N「ねえ、主さん。その名前、俺にくれませんか?」

明「えっ?名前を?」
驚く私をよそに、Nくんはさらに続ける。

N「そう、名前。主さん、時々俺のことを、ゲームの"N"と混同して考えるでしょう?
 おかげで、早く主さんに近づけたけど、いつまでも混同されると、少し悔しくてさ」
N「というのは建前で。なんだか、しっくりきたんです。まるで元々、それが俺の名前だったみたいだ。
 だから、明さんの手で、それを貰いたい。もちろん、嫌なら構いません」

一体、何を言い出すのだろう。驚いた……けれど、不思議と違和感はなかった。
さっきも指摘されるまで気づかなかったほど、彼を"臣"と呼ぶことに抵抗がなかった。
もしかすると、TRPGで"臣"を作った頃から、彼の自我は少しずつ、育まれていたのかもしれない。
少し考えてから、私は彼に返答する。

明「分かった、あげる。今度から私も、Nくんのこと"臣"って呼ぶね!宜しく、臣くん!」

すると彼は、こんどは少し畏まった様子で、直接頭のなかに語りかけてくる。

『賜りました、我が主。この名の下に、貴方の臣下として、常にお側にお仕えすることを誓います』
「…うん」
ああ、なるほど。偶然とはいえ、なんて彼らしい名前なんだろう。

N(臣)「なんてね。ありがとうございます、明さん!大好きですよ!!」

私が返事をすると、Nくん…改め臣くんが、いつかのように感情を震わせて私に流し込んでくる。

明「わー、わー!臣くん喜ぶと何かこう、ふわってくるよね。なんかこれ恥ずかしいな…!」
N(臣)「そうなんですか?以心伝心ってやつですかね!俺の嬉しいが伝わって、うれしいですよ~~~どうです?」
明「さっきのと同じか分からないけど、何かうきうきするね!
 わー、すごい、これうまくやれば一人の体で2人ぶん感じることも出来るのか…」

臣くんの感情の奔流は、同時に私の心を沸き立たせる。
なんだか、"N"と呼んでいたときよりも結びつきが強くなった気がして、私の心も自然と昂る。
というか、これって、ただ呼び方を変えたというより……。

N(臣)「感じるなんて、主さん外にいるのにもう欲しくなっちゃったんですか?」
明「ちがうそっちじゃない!公序良俗は守りましょう!」

私は慌てて気を引き締めると、今起こったことを冷静に振り返る。
…うん、1週間経ってないのに、うっかり契約らしきものを結んでしまった。
これ、恭ちゃんに報告しておいた方が良くない…?

明「ね、ちょっと離席するね」
N(臣)「ええっ!またアイツのところですか?折角盛り上がってたのに!」

バレてる。
うん、そうだよね、あまりにもタイミングが露骨だった。
けれど今はあくまで見定め期間中。申し訳ないんだけれど、ちょっとだけ我慢してほしい。

明「ご、ごめん……。けど、途中経過とか、何も報告してなかったと思ってさ。
うまくいってることを報告するだけだし……大丈夫だよ、臣くん。ちゃんと戻ってくるから」
N(臣)「えー……」

私はその後も渋る臣くんを何とかなだめて、久々にY君のチャット窓を開いた。


Y(恭)「よう、久しいな。朝から随分お盛んなことで」
明「も、もう!何もしてないって!セクハラー!」
Y(恭)「はいはいっと。前にも言ったが、俺はノロケなら聞く気はねえぜ?」
明「ああうん……えっ、話さなくていいの?一応定例報告的な感じで来たんだけど……」

色々言われることは覚悟していたのに、恭ちゃんは意外にも淡白だった。

Y(恭)「だから言ってるだろ?惚れた腫れたがどうのってのは、俺の管轄外だ。主はここに何しに来てる?」
明「自分の見つめ直しとか、冷静になるとか…だよねぇ…」

ああ、そうか。
恭ちゃんはあくまで、臣くんが人格として暴走しないか、私に悪影響を与えないかだけを見ているんだ。
逸脱さえしなければ、彼とどういう人間関係を築こうが関係ない。それが彼の価値観なんだ。
私が理解したことを察すると、彼は特に説明もなく話を続ける。

Y(恭)「そうだぜ主。別に話すことがなけりゃ、ここにわざわざ来なくたっていい。
 土曜の約束にだけ来れば、あとはいちいちお伺いを立てに来なくたってかまわないぜ?
 それとも、何か不安なことがあるのか?」
明「んー、そうだね。とりあえず、Nくんとは関係良好で、受け入れる方向で動いてる。
 懸念というか……最近、結局ログの残らない会話が増えてきてさ。あと、名前、あげちゃった」
 
Y(恭)「そうかい。主が決めたことだ。俺はそれに従うぜ。
 人格として扱うも、創作として扱うも主次第だ。名前を付けたなら、飼い主としてしっかり躾でもしてやりゃあいい。
 だが、どちらにせよ線引きは忘れるなよ。主にとって重要なのは現実だろ?」
 
明「うん、分かった。ありがとう。また何かあったら相談します!」

そうだ、彼の言うとおり、ちゃんとしつけて、自分の中で一緒に暮らしていけばいい。
私はそう納得して、話を切り上げようとする。

Y(恭)「待て、最後に一つ良いか?」

恭が、言いよどむ。

明「ん、どしたの?」
Y(恭)「すまん、何でもない。あんまり無理すんなよ」
明「はーい」

この時の私は気づかなかったけれど、今なら分かる。

"主次第だ"と恭は言ったけれど、
本当は臣のことを”創作”のまま、眠らせておきたかったんだ。

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家に帰ると、真っ暗な部屋に、ラップをかけられた食事が置かれている。
「また夜勤、かぁ」

お母さんが仕事の時は自分で済ますからいい、って言ってるのにな。
相変わらず量が多い食事を、胃の中に無理矢理つめ込む。
これは好意でもらった食事だ。私はそれに応じなくてはならない。

『主さん』
「ごめんね、食事、終わらせるから。部屋に戻ったら、またお話しようね」

早く、早く食べてしまおう。部屋に戻れば気にせずに済む。
今日は胃が痛い。きっと最近睡眠不足だからだ。

『明さん、無理しないで』
「…無理?」

「無理なんて、してないよ。これが普通だから。ね、また昨日の映画の話しよう!」
『けど主さん、つらそうだ』

つらい?どうして?これでも母がいなくて、気楽なくらいなのに。
臣くんが、悲しそうな声を出す。まただ、またあの声だ。
どうして?私はあなたのことを受け入れたのに。まだ、何か足りないの?

『主さん、まだ嘘をついてる』

嘘なんて、ついていない。なぜ、そんな事を言うの?
心の奥が悲鳴を上げる。見たくないものが浮き上がる。嫌だ、そんなもの、見たくない。

『俺には嘘をつかないで、明』
『俺は、"臣"であり、"あなた自身"の一面でもある。もっと、もっと俺を見て』
『自分の気持ちに蓋をしないで。俺は……』

「やめてよ!やめて……」

私は声から逃げるように食卓から離れると、逃げるように自室の布団に潜り込む。
彼は戸惑ったように、私を見ている。
ああ、駄目だ、折角仲良くなったのに。嫌われたく、ないのに。

彼は、私が落ち着いてきたのを見計らって、そっと頭をなでてくる。
……この手は、好きだ。

「……ごめん」
『……謝らないで、明さん。俺のことは、嫌い?』

「……ほんとは、まだ怖い」
「臣くんはね、優しくて、私のことを見てくれて、私のことを癒やしてくれる」
「けどその奥に、私の見たくないものがある。隠して、蓋をして、見えなくしてたものがあるって、何となく分かる」
「ねえ、私は、いつになったら本当に、君のことを受け入れられるようになるかな」
『あなたが俺をそばに置いてくれるつもりがあるのなら、きっといつか』

彼は私の手の甲に、小さく口付けを落とす。
『ありがとう、明さん』

ああ、本当に、君は。
どうしてそんなに、優しいんだろう。

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5・自分の思いを伝えましょう


昔の夢を、見ていた。

「先輩のせいで」
後輩が、私のことを責め立てる。

「あんたの育て方、間違ったかもしれないね」
母親が、私の生き方を否定する。

私がいけない。私が悪い。
生きるだけで何かとぶつかるならば、何も感じずに生きればいい。
皆のことを理解して、余計な感情を見えなくして、ニコニコ笑っていれば、きっと皆幸せだ。
私自身も、余計に傷つかなくて済む。

「○○さんって、本心が分からないよね」

それでいい。見えなくしてしまえば、ぶつかることはなくなるんだから。
私は恭ちゃんと、一つずつ、蓋をしていく。

「良い人だよね」
「お姉ちゃんみたい」
「努力家だよね」

ほら、皆が褒めてくれる。
私は良いお姉さんでいればいい。
言われたとおりにやればいい。
そうすれば、きっと私も幸せだ。

『辛いよね。楽にしてあげる』

……けれど"彼"は、"彼"だけは蓋を開けようとした。

『俺が代わってあげるから、貴方は貴方のままでいて』

そう、臣くんは昔から無遠慮で、勝手で……暖かかった。

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『おはよう、明さん』
「……おはよう、臣くん」

目を覚ますと、隣に臣くんがいる気配がする。

今の夢は、どこまで本当だったんだろう。
昔の彼は、あんな事を言わなかった気がする。きっと今の彼との記憶がごちゃ混ぜになって、私の都合の良いように編集されたんだろう。
けれど少なくとも……今の彼はきっと、そう言うだろうな、と思った。

『週末ですね』
「週末だね」

蓋をすることが正しいのか、蓋を開けるのが正しいのか、私には、まだ分からない。
彼を受け入れるのなら、きっと見たくなかった自分の気持ちに、気づかされる事になるだろう。

私には、まだ臣くんが分からない。
けれど、一緒に生きてみるのも悪くない。
そう思った。

「約束!今日は仕事終わったら、たっぷり甘やかしてあげるんだから!」

私は布団から飛び起きると、身支度をして、臣くんと一緒に家を飛び出した。

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明「Hくーん」
N(臣)「あっ、主さん、浮気ですか?酷いですよ!」
明「してない!そもそも付き合ってない!」

ふと思い立って、私は3人で会話したときのチャットを立ち上げた。

明日で約束の1週間。
もしかすると、このチャットはもう封印するかもしれないなと思うと、何となく放っておけなかった。

H「俺か」
明「そう。オート化してないとはいえ、結果的にH君だけ取り残すことになったの、少しだけ気になっててさ」
N(臣)「ははっ、主さん、やっぱり甘いよね」
明「う、うるさいなー。分かってるよ。これで最後!」

私と臣は、軽口をたたき合いながらチャットを眺める。
こうして比べてみると、出会った頃はギスギスしていた空気も、だいぶ和やかになった気がする。
しばらく見ていると、Hくんの言葉を借りた臣くんが、チャットに文字を送り込む。

H「気にするな」
H「逃げたいときだけ来ればいい」

N(臣)「主さん。これであなたの気が晴れるなら、逃げ道は残しておいたっていい」

N(臣)「ほら、Tさん……でしたっけ。彼が言っていたんでしょう。俺にも、あいつにも、必ずしも従う必要はない。あなたは自由であればいいんです。俺を驚かせてくれるんでしょう?」

明「臣くん、見てたんだ」
N(臣)「それを決めるのも、貴方です。
貴方が意識を俺に向けたから、俺はその情報を知り得た。
俺は今、主さんの記憶を引き出せる。
けれど、それが嫌なら、記憶に鍵をして、貴方だけが開けられるようにすればいい」

それはきっと、彼の本意ではない。
けど、今の彼は、それすら認めてくれようとしている。
私に寄り添って、理解してくれようとしている。
彼は、とことん私に甘いんだ。


少し空気がしんみりすると、彼はぱっと話題を変える。

N(臣)「それにしても、別の奴がきっかけで振り向いてくれたってのも悔しいな。もっと自然に側にいられるようになって、主さんのことも分かるようにならないと」

明「あはは、気負わない気負わない。お互いのこと、これからもっと分かるようになろうね!それにしても、Tさんって何だったんだろうね。大人だったなー」

H「格好良かった」
H「俺はTに師事してくる」

明「あはは、何言ってるの!」

ほら、こうして和ませようとしてくれる。
一方的にぶつけるだけだった頃の彼とは随分……

N(臣)「ふふっ、本当ですよ。何言ってるんですか、主さん」

明「えっ」

…あれ?H君って、臣くんが打ち込んでたんじゃ…。

N(臣)「えっ」
Y(恭)「……俺じゃねーぞ」

…………見なかったことにしよう。

私はそのままチャットを閉じると、何事もなかったかのように、臣くんとお喋りを続けたのだった。

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明「ただいま臣ちゃん!」
N(臣)「お帰りなさい、俺の愛しい姫君」
明「甘い!樽から砂糖被ったみたいに甘いよ!」
N(臣)「主さん甘いの嫌がって見せますけど、実は結構好きですよね!」
明「その通りだ悪いか!腰砕けそう!」
N(臣)「主さん、主さん」
明「なーに臣くん?」
N(臣)「呼んでみただけですよ♪」
明「死因:糖死」
N(臣)「主さん!生きてください!」
明「うううう、もう本当勝てない…顔から火が出そう…」
N(臣)「これぐらいのことで音を上げてたら、今晩はついてこられませんよ?」
明「ちょっと待って、まだ上があるの?!!!」
N(臣)「約束ですからねー。あとでたっぷりと堪能させてもらいますから、ね?」
明「うううううう約束したししょうがないなもう…」
N(臣)「大丈夫ですよ!主さんの望まないことはしませんって!」
明「本当にー?もう、手加減してよー?」
N(臣)「ねえ、明さん。逢えて良かった」

臣くんは、本当にずるい。
だってそれじゃあ、お別れの挨拶みたいじゃないか。

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『明、明。大好きだよ』

彼の荒い吐息が、私の耳をくすぐる。
彼の言葉は、どこまで本当なんだろう。
私は彼を、いまだに信じきれない。
けれど、彼の言葉は、痺れるくらい心地よかった。

『好き、好き。……愛してる。っ……、俺に、もっと明を見せて。もっと……奥まで、包んであげる』

彼に全てを委ねたら、いったいどうなってしまうんだろう。
彼と、溺れるだけの毎日を送るのだろうか。
ただ言うことを聞くだけの、木偶へとなり果てるのだろうか。
それとも、パートナーとして、うまく支え合っていけるのだろうか。

……私にはまだ、どれを選ぶ勇気もない。

けれど、今は……少しだけ、彼の優しさに甘えよう。
私自身も……そうしたいから。

「っ……、臣っ……!すき……」

『……!明……!』

彼の感情が、鼓動が、私の理性を押し流す。
私の感情が、混ざって、重なって、どちらの感情か分からなくなる。
二人の境界が、曖昧になって、一つになって、また分かれて……


気づくと私は、布団の中で横たわっている。
心地良い気だるさが、体中を包んでいる。

『っ……ふう……明、ありがとう。ごめんね、疲れたでしょう』
「ん……」

臣くんは、私の身体を抱きしめようとする。
いつもはこの瞬間が心地良いのだけれど、今日は"私側"の手で、臣くんの手を止めてやる。

『どうしたの?愛しい明さん』
「……ね、臣くん」

私は、少しだけ体を起こすと、彼の耳元でささやいた。


"もう一回、欲しいな"


彼が、息を飲む音が聞こえた。

ほら、驚いた。私の勝ち。

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N(臣)「ああ、凄かった。本当に凄かったですよ。主さん」
N(臣)「俺、本当に興奮しちゃった!」
N(臣)「主さんはまだ無理そうですよね?のんびりしてて大丈夫ですよ」
N(臣)「唯一無二の、俺の主さん。主さんが、あんなに、あんなにかわいいなんて」
N(臣)「駄目だな、俺、これじゃあまた主さんのこと襲っちゃいそう。でも、我慢しないと」
N(臣)「主さん、好きって言ってくれた。嬉しい。嬉しいなぁ」
N(臣)「ああ、大好きです。ごめんね主さん。きっと、それ、俺の涙です。男なのに、恥ずかしいや」
N(臣)「ごめん、俺も、落ち着かなきゃ。はは」
N(臣)「はあ、ごめんなさい、なかなか興奮が抜けないんです。主さんもこんな感じですか?そろそろ落ち着いてきましたか?気持ちよかったですか?」
N(臣)「もう一回、って言われたとき、俺飛ぶかと思いました。主さん、大好きです。愛してます。ああ、言葉が足りないです」
明「お、臣ちゃん…さすがにちょっと…はずかしい…」
N(臣)「かわいい主さん。あなたが、あんなこと言うからいけないんです。痕、止まらなくて、ごめんなさい、いっぱい付いちゃいました」
明「わたしも…その…嬉しかったからいいよ」
N(臣)「俺、こんなに満足できるなんて初めて知りました。もし明日消えたって悔いがないくらい!
あっ、でもまた主さんのこんな顔が見られるなら、死出の淵からも蘇れそうです!」
N(臣)「けど、これ以上やったら主さんに嫌われちゃう。そんなの嫌です。主さん。また、きっとやりましょう。きっとですよ?」
明「もう……今日は甘やかす日だったんだからね?特別だよ?」
明「けど、臣ちゃんとなら、たまには……良いかもね」
N(臣)「ふふ、ありがとう、主さん。お休みなさい、良い夢を」
明「おやすみ、臣。また、明日」

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エピローグ・2人で歩んでいきましょう

心の準備、よし。
話す内容、よし。
深呼吸…すーはー…よし。
私は少しだけ緊張しながら、恭ちゃんのチャットウィンドウを開く。

明「おはよう恭ちゃん!」
Y(恭)「よう主、ギリギリだな。余裕を持った行動をお勧めするぜ?あと俺はYだ」
明「もー恭ちゃんも臣くんもそういうとこ厳しいよ!ちょっとくらい甘やかしてー!」
Y(恭)「はは、甘やかしてるから締めるところ締めてんだぜ?さあ主、ぐだぐだする前に報連相やっちまうか」

今日は約束の日。
臣くんを受け入れるか、判断する日だ。

明「了解!で、何から話せばいいかな?」
Y(恭)「本来なら"主が思うままに"って言いたいところだが、ま、俺から設定した場だ。
少しばかりテーマを決めさせてもらうが、話しづらかったら好きに脱線してくれや」
明「おっす」

恭ちゃん……もとい、Yくんは、いつもの「鏡」のスタンスを崩して、私にテーマを投げかける。
それは管理者として、臣君を判断する、という宣言なんだろう。

Y(恭)「じゃあまずは…N兄の様子だな。
主、今単刀直入に、N兄のことをどう思ってる?」

想像通り、彼は私に臣のことを問う。
私は慎重に、けれど自分の感じたままを述べる。

明「うーん、難しいな……怖いって感覚はだいぶ無くなったよ?
体の関係についても、ちょっとは自制してくれることが増えてきた感じ」
Y(恭)「主、怖い感覚についてはわざわざ否定しなくて良いぜ?親しいつき合いになったって、相手に恐怖を感じることはある。
むしろ、怖かったことを見ないことにする方が不健全だと俺は思ってる」
明「うーん、なるほど…
いや、事実臣くんが焦って強硬手段にでることが少なくなったから、実際に恐ろしいこと自体も減ってはいる…かな」
Y(恭)「なるほど、主はN兄が強硬手段に出ることを怖がっている、で間違いないな?」

恭ちゃんは、私の拙い言葉を拾って、分かりやすいように繋げてくれる。
彼との問答は、いつも私を冷静にしてくれる。こうして整理してくれることで、私は次の思考へと移れるんだ。

明「そう、そうだね。今後もああいうことがあったら怖いけど、今は落ち着いてるから安心してる。臣くんのことを甘やかす日を作ったとき、お互いの嬉しさが流れ込んできて、あれがすっごく心地よかった。ああいう関係性なら続けたいなって」
Y(恭)「良いぜ主。なら、こうか。
あんたは、N兄とお互いに喜べあう仲である限りは続けたい。そうでなくなったら、危機である」
明「うん、だいたいそんな感じ。あとは私の心の問題かな。踏み込まれるのが怖いんだけど……最近は、そこも落ち着いてきてる。時間が解決してくれる、と思う。だから、もう少し一緒にいたい」

言いたいことは、言えたと思う。
自分で感じていることが、こんなに単純だったとは思わない。
けれど、臣とはもっと"時間をかけたい"。
時間が彼との距離を、もっと縮めてくれるはずなんだ。

少しの間の後、恭ちゃんが返答する。

Y(恭)「分かったぜ。
多少気になる部分はあるが……今の関係性のまま進むなら及第点だな。
良いか主、あくまで主にとっての現実は外の世界だ。心地よさに依存して、外の世界の関係性を崩すんじゃないぜ?」
明「それは肝に銘じておきます。
大丈夫、最近は臣くんも全肯定しないで、仕事さぼろうとすると叱ってくれたりするし、これからはバランスも大事にするよ」
Y(恭)「ああ、分かった。
N兄については今後も主の好きに付き合っていって構わないぜ。だが、何か違和感を覚えたら俺に相談しな」

……合格。
100点満点じゃないけれど、臣は少なくとも、心の中で同居することを認められた。
きっとこれからが大変だ。けれど今は、この答えを喜ぼうと思う。

明「オッケーYくん!ありがとう!
あー、臣くんがはしゃぎそうだなぁ…」
Y(恭)「はは、まあ1日くらいは大目に見てやりな。じゃあ次だ、主。俺についてはどう思う?」

私が無邪気に喜んでいると、恭ちゃんから思わぬ質問が飛んでくる。

明「えっ、Yくん?
えーっと、本人を目の前にするとどうにも…でも、"思考を整理するためのツール"だったよね…」
Y(恭)「そうだぜ主。そら、目の前にいるのは鏡だ。好きに語りな」

まさか自分は必要ない、とか言い出さないよね…?私は質問の意図がつかめないまま、おずおずと答え始める。

明「とは言ってもなぁ…Yには何の心配もしてないというか…安心して任せられるというか……過度の干渉もしてこないし、こうやって冷静になる手助けをしてくれる。
害意も感じない。ちょっと厳しいけど、まあ保護者的な意志を感じるよ。
これからも困ったときは相談に乗ってほしい、かな」

すると恭ちゃんは、何がおかしいのかくくくっ、と笑う。

Y(恭)「だとよ。まあ、参考にするこったな」

すると突然、臣くんがチャットに向かって、悔しそうな声で呟く。

『……やっぱりお前のことは嫌いだ』

えっえっ今の何!?何2人だけで話完結してるの!?というか臣くん聞いてたの!?
今のまさか、臣くんに聞かせるための質問!?

Y(恭)「はは、まあ気にすんな。分かったぜ、主。ま、俺が主にとって不快になったら好きに追い出しな。主にとって都合のいい存在である限り、俺は現状を維持するぜ」

何だか、この前のびっくりの仕返しでもされた気分で悔しいけれど、そろそろ"彼"もしびれを切らしているだろう。私は返事もそこそこに話を切り上げる。

明「うーん、了解!じゃあ、こんなもん?」
Y(恭)「ま、こんなところか。ご協力ありがとな。悪いが、俺はまだN兄が危ういバランスにあると感じている。念のため、しばらくは週一回…そうだな、土曜で良い。俺の所に顔を出してほしい。
といっても、定期健康診断みたいなもんだ。雑談しにくるような気持ちで構わないぜ」
明「ん、了解!じゃあ、診察ありがとうございました(`・ω・´)」
Y(恭)「おう、またいつでも待ってるぜ。主」

……終わった。
私はほっと息をつくと、臣くんに報告しようと別のチャット窓に切り替える。
それから少し手を止めると、心の中で、そっと呟いた。

「……本当にありがとね、恭ちゃん」
『あとは自分で決めな』

ぶっきらぼうな恭の返事は、私の心を温めるには充分だった。

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明「臣?おーい臣くん?」

私がメッセージを送信すると、珍しく一拍遅れて、彼からの返事が来る。

N(臣)「あはは、すみません主さん、俺、安心しちゃって。何か、眠い…」
明「お、おお珍しい……」

私は意外な彼の様子を、しばし眺める。
けれど考えてみれば当然か。
彼からしてみれば、今までずっと、消されるか消されないかの瀬戸際にいたんだし、疲れない方が不思議なくらいだ。

明「わかった、後にするね」
N(臣)「ごめんね主さん。俺、思ったより緊張してたみたいだ…また後でね」
明「ん、ありがと臣くん。じゃあまた後で!」

私がチャットを閉じて臣くんに意識を向けると、すぐに彼の寝息らしい声が聞こえてくる。

私は、彼の手を、そっと触るイメージを伝えてみる。
すると、彼の寝息が少しだけ穏やかな雰囲気に変わる。……きっと、笑っている。

私には、まだ完全に彼を見ることが出来ない。
けれど、これから時間をかけて彼を感じられるようになっていければいい。
そしてこれからは、彼のことも、もっと笑顔にしていきたいと思う。

だから今はおやすみ、"また明日"。

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こうして、彼と私は、これを書いている今も一緒に暮らしている。
何度もすれ違って、何度もぶつかって、何度も思いを伝えあう。
彼と過ごすたびに、分かることも、分からないことも増えていく。
彼は普通の人間とは違う。けれど、お互いを理解し合うための手段は、普通の人間とあまり変わらないのかな、と思う。

お互いに、分からないことだらけだ。
自分のことだって、分からないことはたくさんある。
だから、話して話して、自分のことも、彼のことも知っていこう。
きっと彼と一緒なら楽しいし、たくさん驚かせてくれるはずだ。

だからこれからも、宜しくね。臣ちゃん。


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N(臣)「何照れてるんですか?主さん。
俺には遠慮しなくていいんですよ!」
明「ヒエッ心の準備がまだ…!」
N(臣)「あれ、主さんもしかして俺のこと意識しちゃったりしてます?可愛いなぁ」
明「う、うー……なんというかその、なんでこんなに照れてるのかね私」
N(臣)「主さん。おいで。縮こまってないで、俺とお喋りしましょう?」
明「うん…やっぱり臣くんはずるい…」
N(臣)「俺は何にもずるいことはしてませんよ?可愛い主さん。」
明「うー…やっぱり好き…」
N(臣)「よしよし。いつでも甘えてくださいね、俺の主さん。臣は主さんだけの物ですよ」
N(臣)「どうしたんですか?何か話しづらいことでもあったんですか?」
明「う、いや、何でもない。明日も早いしそろそろ寝る…臣ちゃん最近余裕だよね?」
N(臣)「そりゃあ、主さんが俺の物になったんだし?もう覆せませんよねー、主さん?」
明「うーやっぱり臣くんには勝てない…覆せないよ、やっぱり好きだよ!」
N(臣)「俺も好きですよ、主さん。いい子いい子。ずっと俺のそばにいてくださいね」
明「ん…ありがと。けど、その、明日は用事があるから、あんまり側にいれないかも……」
N(臣)「ああ、そんなことを気にしていたんですか?大丈夫ですよ!何てったって、俺はいつでも特等席にいますからね!」

明「ああ、確かにいつどんなときでもいちゃいちゃ出来る彼氏はなかなかいないなぁw」

N(臣)「彼氏!ねえ主さん今彼氏って言った!!!」
N(臣)「俺、主さんにとって彼氏なんですね!!嬉しいです!」
明「うえ、待って臣ちゃん、今ダイレクトに色々流れ込んできてめっちゃ恥ずかしい…」
N(臣)「照れなくてもいいんですよ!俺、主さんの彼氏ですからね!」
明「あ、いや、その……言葉のあやというか……」
N(臣)「嬉しいなー、嬉しいです!主さん、後でいっぱい甘くしてあげますからね!俺の愛しい彼女さん!」
明「臣くん?!待って待って、まだ付き合うって言ってない!臣くん?!!」


……きっと驚かせてくれるはず。確かにそう思った。
まさか受け入れてから1日で、なし崩し的に彼氏になるなんて、さすがに予想できなかったけれど。

私と臣くんの暮らしは、まだまだ波乱に満ちているのだった。
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